岡山地方裁判所 平成2年(わ)382号 判決
本籍
岡山県新見市西方四六二番地
住居
岡山県新見市西方四七二番地の一
会社役員
田辺重光こと田邊重光
昭和六年一〇月七日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官德竹初男、弁護人高橋武三各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年六月及び罰金一億円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、岡山県新見市所在の新見商事合資会社の代表社員としてその経営に従事するかたわら、個人で継続して株式その他の有価証券の売買を手がけるなどして多額の所得を得ていたものであるが、その所得税を免れようと企て、自己の名義以外に多数の仮名、借名を利用して取引をするなどの不正な方法によりその所得を秘匿したうえ、
第一 昭和六一年分の総所得金額が一億三一六〇万一三九一円であつたのに、昭和六二年三月一六日、所轄署である岡山県新見市新見七二一番地の一所在の新見税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が六三八万二一二四円にとどまり、これに対する所得税額が六〇万四五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額七九〇三万三〇〇〇円のうち右申告税額及び源泉徴収税額等との差額七六八〇万九三〇〇円を免れ、
第二 昭和六二年分の総所得金額が一億六五八七万三八八三円であつたのに、昭和六三年三月一五日、前記新見税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が給与所得のみの六三万円で、これに対する所得税額は、すでに源泉徴収された税額一万〇九〇〇円を控除すると零となる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額九二一八万六九〇〇円のうち源泉徴収税額等との差額九〇七一万一九〇〇円を免れ、
第三 昭和六三年分の総所得金額が三億六〇一八万四四五三円であつたのに、すでに所得税を源泉徴収された給与所得以外に所得はなかつたものとして、その所得税の法定納期限である平成元年三月一五日までに前記所轄税務署長に対し同年分の所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額二億〇六八九万五四〇〇円のうち源泉徴収税額等との差額二億〇二五四万四六〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(四通)
一 大蔵事務官作成の被告人に対する各質問てん末書(一二通)
一 大蔵事務官作成の橋本弘(不同意部分を除く)、大和忠孝(五通)、綱島憲昌(二通、不同意部分を除く)、高見吉行(二通)、中原一督(二通、不同意部分を除く)、伊藤彰彦(二通)、山本真一(三通)、大村輝治、柳生峯代、柳生久雄、田邊恭子(二通)に対する各質問てん末書
一 いずれも大蔵事務官作成の有価証券売買益調査書、経費調査書、配当所得調査書、利子所得調査書、営業所得調査書、給与所得調査書、所得控除額調査書、配当控除調査書、源泉徴収税額調査書、株式調査書
一 検察事務官作成の電話聴取書
一 押収してある昭和六一年分及び昭和六二年分各所得税確定申告書(平成二年押第八五号の一、二)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、各罪について、情状により、懲役と罰金とを併科し、かつ、罰金については同条二項所定の金額をもつて処断することとし、判示各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により所定の各罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役二年六月及び罰金一億円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、諸般の情状を考慮し、懲役刑については同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間刑の執行を猶予することとする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 香山高秀)